エレファントカシマシのリーダー宮本浩次が2ndソロアルバムを発表した。「ROMANCE」と名付けられた作品は昭和歌謡中心のカバー集というエレファントカシマシを初期から追っているファンの度肝を抜くような作品だ。
「あなた」
弱冠16歳にしてヤマハポピュラーソングコンテストに出場し、見事グランプリを獲得。160万枚の売上を記録した小坂明子の名曲。広がりのあるオーケストラと小坂の澄み渡るようなハイトーンが印象的な原曲の壮大さはそのままに激しく歌い上げ、ザ・フー「四重人格」を思わせるようなロックバラードに昇華している。
「異邦人」
シンガーソングライター久保田早紀の代表曲。同時代に「飛んでイスタンブール」、「魅せられて」などが発表されていることから当時のエスニックブームがうかがい知れる。原曲ではチェンバロやシンセサイザーなどがふんだんに使われているが、ここではシタールだけにとどめ、ジプシー風のハネたリズムを敢えて強調しないことでサビの開放感を演出している。
「二人でお酒を」
「こんにちは赤ちゃん」に縛られていた梓みちよの転換点になった作品。1番の歌詞を歌い終えたあと胡坐をかきながら歌う演出は本人考案のもの。ムード歌謡とはとても思えないアコースティックギターによるイントロから始まる。いわゆる「演歌」と一括りされてしまいがちな「歌謡曲」の魅力を引き出した秀逸なアレンジ。
「化粧」
「バカだね バカだね」という歌詞が印象的な中島みゆきの名曲。切々と歌い上げサビで一気に爆発するエレファントカシマシ以来の宮本の歌い方ではあるが、カバー曲ながら泣き崩れながら歌うサビにとてもマッチしている。
「ロマンス」
いわゆるディスコ歌謡の最初期の作品。しかし、岩崎宏美の歌唱によってそれとは気づかせない流麗さが生まれている。ここではザ・ビートルズ「Savoy Truffle」のようなブラスロック風にアレンジされているが、このアルバムのなかではストレートなアレンジ。原曲はフェイドアウトだったがカットアウトで終わっている。
「赤いスイートピー」
松任谷由実の松田聖子への提供曲第1弾。アイドル歌謡のお手本のような名曲。ストリングスは入っているが、ここまでのバンドサウンドではなく、名前を付けるとすればテクノオーケストラといったアレンジになっている。
「木綿のハンカチーフ – ROMANCE mix」
走る汽車のようなストリングスのリフが面白いアレンジ。太田裕美による原曲では、当たり前だが、彼女側に感情移入してしまう。しかし、彼氏側を野太く、彼女側を細々と歌い上げる宮本の歌い方によってどちら側にでも感情移入でき、歌の解釈が広がっている。
「喝采」
ちあきなおみによる歌手の宿命を歌い上げた歌謡曲の金字塔。イントロから壮大なストリングスで幕を開けるが、原曲の切実さはしっかり宮本の歌によって補完されている。歌の可能性を引き出した秀逸なアレンジ。
「ジョニィへの伝言」
バンド「ペドロ&カプリシャス」の代表曲。歌詞の内容から当時は無国籍ソングと言われたが、宮本が歌うと日本の下町のイメージが想起される。ペドロ&カプリシャスよりもバンド的なサウンドになっている点は不思議だ。
「白いパラソル」
当時流行りのテクノポップ風のイントロが可愛らしい松田聖子の1981年のシングル。ここでは原曲の抑え気味な曲調を換骨奪胎し、緩急を効かせた感動的な楽曲に仕上げている。サビの爆発力が聴きどころ。
「恋人がサンタクロース」
もはやクリスマスソングの定番となった1980年発表の松任谷由実の作品。ゴージャスな印象はそのままに随所に鳴るベルの音がよりクリスマスソングとして完成度を高めている。
「First Love」
1999年にリリースされた宇多田ヒカルの名曲。アルバム最後の曲はバンドアレンジではなく宮本の弾き語り。最初のギターの音で初期の楽曲がフラッシュバックした人もいるだろうが、ここでは最後まで美しく歌い上げているのでご心配なく。
宮本の歌が素晴らしいことは言うまでもないことだが、歌手が実力を発揮するためには原曲の持つ背骨を大切にしながら、現代にあわせたアレンジをする必要がある。
このアルバムは昭和歌謡という、ともすれば古臭く見られがちなジャンルを現代に向けて見事に生き返らせたといえる。また、このアルバムから各種昭和歌謡の名曲を辿っていくことも面白いだろう。
全編歌謡曲カバーということで及び腰になっている方は安心して手に取ってみてほしい。
文 / 上岡 賢
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