家族の介護をし始めると、変わってくることがあります。
意図したわけではないのに、それまでの交友関係から知らず知らず距離が生まれることは少なくありません。
家族関係――介護を受ける人と介護する人との関係性やその距離感(物理的・心理的)や介護する人の仕事の有無や、介護を受ける人の健康状態、病気や怪我など必要な介護の内容、経済事情などなど情況は人それぞれ違いますが、この中で最初に介護を受ける人のサポートを担うメインの人物が決まってくるような流れがあります。
妻であったり、実子であったり、嫁いできた娘であったり、きょうだいだったりする血縁関係の人がいわゆる「キーパーソン」となることが多いです。
最初に、暮らしている自治体の介護保険の窓口や地域包括センターを通して、公的な介護サービスを受けるべく「介護認定」を申請することから始まるかもしれません。
その時「キーパーソン」は介護を受ける人の代わりに主に各機関との連絡やスケジュールや金銭の管理、申し込みなどが必要なら申請手続きなどなどをやっていくようになることでしょう。
この時介護をする本人は「家族の介護が始まる!」という意識はあまりなく、よくわからないこともあって、とにかく手筈を整え、申請したことをこなし、介護を受ける家族の身の回りの世話や通院など具体的に関わっていくことになります。その間に介護を受ける人の家族(自分にとってきょうだいだったり、親のきょうだいだったり)と言葉を交わすことが突然増えたりすることもあるかもしれません。それもまた関係性によっては、長らくやりとりのなかった相手との応対をすることになり、戸惑うことも少なくないかも。
そして、自分に家族がいる場合は、子どものことの調整や対応を並行に行う。仕事をしていたら時間のやりくりと業務内容、職場の人間関係の調整を同時に行う。そのことに忙殺されていくうちに、フト気づく、これまでの日常から一変してしまったことにーーーー。
そうしてから「あ、『介護』が始まったんだ」と意識する。
改めて気づいた頃には、
それまでの交友関係の相手とは、バタバタと忙しくしていてすっかり連絡をし損ねていたり、ちょっと出来た時間でお茶でも飲んでストレス発散と思っていたら、お互い興味の話題がずれていて、介護の愚痴でも聞いてもらおうと思っても全然聞いてもらえなかったり、話せても何かモヤモヤした思いが残ったり・・・
次の約束の時間も確保できない状況で、「また連絡する」と言ったきりになってしまい、
離れてしまったり、あるいは自分から距離を取ったり、となることも。
自分の境遇が変われば、それまでの交友関係で展開していたことに変化が訪れるのも不自然なことではないかもしれません。
もちろんそうしたことを乗り越えた、「どんな時でも友だち」という強い絆を結んでいる交友もあると思います。
それでも、おそらく多くの人は、自分の「家族の介護」についてなかなか話をする機会が持てないものです。まず時間がない、そして聞いてくれる相手がいない。プライベートな内容を含む、そして介護の悩みやわからないことを相談・・という日々の作業や介護サービスの内容について専門的なアドバイスが欲しい場合もあれば、そういったアドバイスは求めておらずただ不安や愚痴を口にしたいことも多いです。なかなかわかってもらえる話題ではないこともあり、相手も聞きたくないだろうと遠慮することも、また話された相手もどう返答したら良いものかわからず、会話を中断させてしまうこともあり、そのチグハグさが嫌で介護する人はこれまでの交友関係から自ら離れていくことも。
また介護スタイルーー介護を受ける人の自宅で一緒に暮らして面倒を見ているのか、遠距離(通い)介護なのか、あるいは施設入所なのか、病院に入院なのかーーそれもさまざまな中で、介護者が抱く思いもいろいろです。
そして冒頭にあるように、家族関係、病気や怪我の具合、認知症の有無とその進行具合、健康状態、経済状態などによっても。
誰一人、同じ介護をしている人はいません。
介護の内容は時間と共に濃くなり、負担も増えていきます。介護をする人(介護者、ケアラー)は家族の介護に割く時間が否応なく増え、体力的、精神的にきつくなるので、これまでの自分のライフスタイルを切り崩していきます。仕事を辞めたり、変えたり、交友関係が小さくなったり離れたりしてしまうことで、社会から孤立してしまうことが普通にあります。
介護する人は、介護を受ける人の病気についての医療的な専門知識もなく、もちろん福祉や介護の専門知識も経験もないなかで、公的な介護サービスの手を借りながら、それでも試行錯誤しながら、わからない正解を思い描きなから、家族の介護に揺れ動いています。
そうした介護をする人をサポートしようという動きは、介護保険制度が始まった2000年ごろから地域の中から生まれ、大なり小なりの規模で「家族介護者」という形で全国で動きがあります。
またこうした公の場でなくても地域ごとに「介護者の会」「ケアラーサポート」という小さな個人的な集まりや集いもあります。
コロナ禍の今では、実際に集まることが難しいことや介護を受ける人への感染を懸念して対面式よりもオンラインで集う機会も増えています。
自分一人で抱えきれない思い、不安、悩みは、同じように思っている人が必ずいます。
公的な介護サービスでは解決できなことも、そうした場で何かヒントがもらえたり、励まされたり、慰められたりします。その場で話ができるだけでも気分転換になったり。そしてそれはまた戻って介護をしようという大きな力になることも。
介護をしている人は、できるだけ外に繋がってほしいと切に願います。
あなた一人ではありません。
文 / 井上晶子
参考