私たちが過ごす暮らしの中にたくさん溢れている「匂い」「香り」。
実はこの匂い・香りを感知する嗅覚神経は脳の働きに直結し、他の感覚知覚に比べて認知症の症状への手掛かりになることが判ってきています。
よく聞くのが『プルースト現象』。
作家プルーストの著作「失われた時を求めて」の中の一節に登場したシーンをきっかけに広く知られるようになり、匂いを手掛かりに過去の記憶を思い出すという現象のことです。
匂いの感覚(嗅覚)は、匂い分子が脳につながる嗅覚細胞を刺激し、脳の前の方にある嗅覚中枢に伝わり、本能的な行動や喜怒哀楽などの感情を司る大脳辺縁系に繋がります。その大脳辺縁系には海馬という記憶を司っている部位があるため、喜怒哀楽といった情動や記憶が呼び起こされます。これがカラクリ。
視覚や聴覚でも記憶の想起はあると言われていますが、それは10代〜20代のティーンエイジの頃と言われる一方で、嗅覚関連の記憶の多くは6〜10歳のくらいに由来しているとか。そのため子どもの頃の記憶が鮮明に蘇ることがあります。
また嗅覚の衰えは認知力の低下の兆しとも考えられ、認知症の早期発見、予防に繋がるという研究結果もあります。
認知症の高齢者を対象にしてアロマテラピーを4週間続ける臨床試験では、症状の軽い初期の患者の中で、認知機能が一部改善する効果が認められました。これは認知機能を回復させる可能性が示されたことを表します。
認知症予防に、日頃から匂いを嗅ぐことに意識してみてもいいかもしれません。アロマテラピーを習慣化するというのはなかなか馴染めなくても、日常的に溢れている匂いに意識を向けてみる。高齢の方々だと(特に女性なら)、調味料の「さ・し・す・せ・そ」はいかがでしょう?和食の調味料は、
さー砂糖
しー塩
すー酢
せー醤油(せうゆ)
そー味噌
・・・ですが、「さ・し・す・せ・そ」の中で、匂いで嗅ぎ分ける、判断しやすいのは、調味料の中でも、
さー酒
しー醤油
すー酢
そーソース
の4つが特徴的な匂いがします。
日頃からこれらの匂いなら料理されている方は馴染みもあり、区別、判断しやすいと思います。
アルツハイマー型は物忘れよりも前に、匂いがわからなくなることがあります。
もし高齢期のお母さんが心配だったら、クイズ感覚くらいの気楽さで調味料の匂いチェックをしてみても。
それでも、もし匂いがわからなかったから「アルツハイマー型認知症なんだ」と早合点はしないこと。専門医を訪ねてみる一つのきっかけくらいに受け取ってください。早期発見が対応をスムーズにします。そして何より自分もトライ!
文:井上晶子