母と食事に行くと「ここは私が払うから!」と、お財布をゴソゴソやりながら、しつこく何回も声をかけられます。
同じことばかり言うので、落ち着いて食事ができない場合も多く、かなりのストレスを感じます。
家に帰ったら帰ったで「お金は大丈夫か?」を繰り返します。
ちょっと前のことを忘れてしまうので、同じことを繰り返しちゃうのは理解しているんだけど、こう言われ続けるとボディーブローのように響いてきます。「もう、いい加減にして!」と、声を荒げてしまうこともあります。
ずっと母と過ごすうちにそんなときの対応法に気づきました。母の意識を「音楽」に向けるのです。
最近は一緒に時間を過ごすときには手元に音楽を用意します。
懐かしいCDなどでも良いのですが、より効果を発揮するのは実際に歌手の方が歌っている映像です。
「そういえば、見たいテレビがあったんだ」と、母が好きだった美空ひばりさん、島倉千代子さん、越路吹雪さんなど、往年の女性歌手の映像をビデオで流してあげます。
歌声に酔いしれた母は「あ〜、なんて歌がうまいの。この人、大好き」と、気持ちが一瞬で切り換わります。気分がよくなると「あ〜、この歌はみんなで歌ったわ」と、過去の記憶をたどり始めます。
どんな風に歌っていたの?と聞きかえすと「働いていた工場で誰からともなく歌い始めるの」などと話をはじめます。
母は「歌」とつながることで過去の記憶を呼び戻しているんですね。
医療の世界で「回想療法」と呼ばれるものですが、過去の音楽や映像に容易にアクセスできるようになった現代社会は「回想療法」にはピッタリです。
美空ひばりさんの歌を聞いている母はうっとりと画面を見て楽しそうに歌います。そして「ひばりちゃん、良いね。元気なの?」と同じことを聞いてきます(笑)。ここは変わりません。
こちらは「美空さんは亡くなったんだ。惜しい人を失くしたね」と返すわけですが、お金のことを何度も繰り返されるよりも、穏やかな対応ができることは言うまでもありません。時々、そのやりとりに笑えたりします。
天国にいる美空ひばりさんはこうして、歌を聴く人、歌を歌う人、介護でストレスを抱えるひと、まだまだ多くの人を癒しています。音楽って本当にいいなと思える瞬間です。♡