
アルツハイマー病(AD)は、記憶力の低下や認知機能の衰えを招く進行性の神経変性疾患だ 。2024年の統計では、アメリカの65歳以上の約9人に1人がこの病気に直面しており、その数は約690万人にものぼる 。病気の進行を遅らせ、患者の生活の質を保つためには、早期の発見と正確な診断が何よりも重要となる 。
近年の医療現場では、磁気共鳴画像(MRI)を用いた脳の構造解析が貴重な診断ツールとなっている 。本研究では、このMRIから得られた脳の解剖学的な数値データを、「機械学習」というAI技術を用いて解析した 。具体的には「ランダムフォレスト」と呼ばれるアルゴリズムを採用し、アルツハイマー病、軽度認知障害(MCI)、そして健康な状態の脳を、92.87%という非常に高い精度で見分けることに成功したのである 。
この研究の大きな特徴は、単に病気の有無を判定するだけでなく、年齢や性別によって「脳のどの部分が診断の決め手になるか」を詳しく調べた点にある 。解析の結果、海馬、扁桃体、嗅内皮質といった領域が、どのグループにおいても共通して重要な診断の指標となっていることが分かった 。
さらに詳しく分析を進めると、年齢や性別によって脳の容積減少のパターンに興味深い違いがあることが明らかになった 。例えば、69歳から76歳の比較的若いグループでは、男女ともに「右海馬」の容積減少が初期段階の重要なサインとして現れていた 。一方で、77歳から84歳の高齢男性グループでは、「左下側頭皮質」に顕著な減少が見られた 。また、女性では「左中側頭皮質」、男性では「右嗅内皮質」の変化がそれぞれの性別に特有の影響を与えている可能性が示唆されたのである 。
このように、私たちの脳は加齢や性別によって、病気の影響を受ける部位やその程度が異なる道のりを辿る 。今回の研究成果は、将来的に患者一人ひとりの属性に合わせた「個別化医療」を実現するための大きな一歩となるだろう 。脳のわずかな構造的変化をAIが捉えることで、より早い段階で適切な治療や介入を開始できるようになることが期待される
Jogeshwar, B. K., et al. (2026). Neuroanatomical-based machine learning prediction of Alzheimer’s Disease across sex and age. Neuroscience, 594, 95–112.
