自分のように認知症予防をリアルに感じる人たちの多くは親世代の介護に関わっているのではないかと思います。
認知症予防もしたいんだけど、それどころじゃない出来事が日々起きてしまう。
昨年末、父を亡くした我が家も仙台で母が倒れ、妻がそのサポートに向かったため、二重生活をすることになりました。そのおかげで妻が背負っていた家事全般を担う必要が生じ、2ヶ月にわたって妻の代わりを務めています。
森喜朗さんの女性蔑視発言で話題が沸騰しているジェンダーも女性が社会に出て活躍することばかりがクローズアップされますが、「家事」という家庭内の無償労働について男性が担うことが語られることはありません。絶妙のタイミングで自分にその役割が回って来てしまった。
あたり前のことですが実際に家事を手がけてみるとこれはもう大変。
一人暮らしも体験し、料理なども楽しむ自分であっても、毎日の家事のストレスが根雪のように降り積もっていく。
平時の仕事を続けていたらすでに燃え尽きていたかもしれません。
新型コロナ感染症によって仕事がリモート化していたため、家事と仕事の微妙なバランスを保つことができたようです。
おや、使ってない脳を使っているかも。
料理、洗濯、ゴミ出し、掃除、仏壇のメンテ・・・。
これらの家事が自分を中心に回り始めたわけですが、これまでとは違った思考が頭のなかを回り始めたことに気づきました。
買い物中に冷蔵庫の中身を思い返したり、スーパーで買った鶏のもも肉の消費期限が気になったり、野菜室で残っているキュウリをどう活用しようかと料理のアイデアを浮かべたり、明日の朝食を冷蔵庫の中身から考えたり・・・。
インターネットのレシピを参考につくっていた料理も何度かつくっているうちに、目で見て野菜の新鮮さを確認したり、自分の舌で味を確かめたり、匂いを嗅いでご飯のできを判断したりと、情報のインプットとアウトプットを繰り返しながら頭を動かしている自分に気が付きました。
「認知機能を守るためには料理がとっても良いんです!」
認知症の予防について語る際によく口にしていたことですが、実際に体験してみるとこれまでの違った脳の使い方をしているぞ!と思うことがたくさん出てきます。
「認知症予防を野球に例えるなら脳内に控えの選手をつくっておくこと」
日本認知症予防学会の浦上克哉理事長の言葉ですが、確かに自分の好きなことや慣れ切った仕事だけしてると脳の同じ部分しか使わない。こうして家事をする境遇になってみて初めてその真意が理解できたような気がします。
こんな生活があと4カ月ほど続く予定になっています。
まあ、仕事のことを考えると暗い気持ちにもなりますが、その代わりに脳の認知力が強化されているかと思うと、すごく良い体験をさせてもらっているのだと思います。
人間万事塞翁が馬
認知症予防は人生の要求をポジティブに引き受けていくことから始まるのかもしれませんね。
体験・文 / 上岡裕